リーズンの軌道モデル

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2023/04/11 リーズンの軌道モデル

福祉介護施設において、事故予防は重要な経営課題の一つでしょう

 

事故対策を目的としたリスクマネジメント委員会を設置している施設事業所

 

は多いと思いますが、一方で、事故報告書やヒヤリハット報告が適時かつ

 

的確に分析され、二度と起きないようにその対策が講じられているケースは

 

決して多くはないといった印象です。

 

実際、いくつかの施設で事故報告書を見せて頂くと「見守り不足」が事故

 

の主原因として書かれてあり、その対策として「見守りを強化する」と云っ

 

事故報告書が多いというのも事実です。

 

こうした施設の問題は、事故を個人の問題として終わらせているところで

 

す。事故発生は個人の問題ではなく、あくまでもその組織、システムの問題

 

です。それを明確化したのがリーズンの軌道モデルなのです。

 

リーズンの軌道モデルとは、システム上の複数の欠陥(穴)を全て通過した

 

に事故が発生するというメカニズムを解き明かしたものです。

 

英国の心理学者ジェームズ・リーズンが提唱した事故モデルなのでこの名前

 

が付けられています。

 

ここで、日本でのある裁判事例を揚げて、このリーズンの軌道モデルを説明

 

したいと思います。

 

その裁判事例は、「利用者が昼食で出たおでんのこんにゃくを喉に引っかけ

 

て窒息死した」というものです。

 

当然、裁判ですから事実関係を元に争われるわけですが、記録や証言をもと

 

に解き明かしていくと、以下のような3つの欠陥(穴)があったことが分か

 

ってきました。

 

一つ目の穴。嚥下困難の利用者であることは分かっていたのに数日前に入職

 

したばかりの新人介護士にその利用者の食事介助を任せていたという事実。

 

新人が自らかって出て、その嚥下困難な利用者の食事介助をおこなうことは

 

考えられません。誰かが指示を出したはずです。それが施設長であれ、現場

 

の主任であれ、これはシステムの問題です。決して個人の問題で片づけるこ

 

とはできないでしょう。

 

次に二つ目です。嚥下困難の利用者であると介護部署では認識されていた

 

にも係わらず、厨房にその情報が伝わっておらず、その結果、刻みのない

 

常食が出されていたという事実。

 

介護部署と厨房間のコミュニケーション不全ですから、こちらも間違いなく

 

システムの欠陥です。

 

そして最後の三番目。これが強烈で、どこの現場でもありそうなことです

 

が、新人ながら嚥下困難の利用者であることは知っていたので、その利用者

 

の吞み込みを確認しながら、少しずつ、少しずつ食事介助をしていたところ

 

そこに主任が走り寄って来て、その新人の肩を叩きながら、次は入浴介助だ

 

からあんた早くしなさいと言って、走り去っていったという事実。

 

この3つのシステムの穴を全て通り過ぎた結果、この事故が起きてしまった

 

ということが分かったのです。

 

皆様は、この裁判事例をお聞きになって、どのようにお感じになるでしょう

 

か。これが、果たして個人の責任といえるでしょうか。

 

「見守りを強化する」という多くの施設の事故報告書に書かれている対策で

 

果たして再発を防止することができるでしょうか。

 

私はこの裁判事例を知ってからは、施設で起きる全ての事故は個人の責任で

 

終わらてはいけないと思うようになりました。

 

実際、この3つのシステム上の穴を一つでも塞いでおけば、この事故は発生

 

しなかったわけですから。

 

もし、この施設に「新人に嚥下困難の利用者の食事介助を任せてはいけな

 

い。」というルールがあって、全体で共有されていれば、この事故は起きな

 

かった可能性が大きいと思います。

 

また、厨房に嚥下困難の利用者という情報が伝わっていれば、刻み食なり、

 

何かしらの加工が施され、結果、窒息死に至らなかったのではないでしょう

 

か。

 

あるいは、主任が急かせるような態度で指示命令しなかったとしたら、この

 

事故は防げた可能性は大きいでしょう。

 

蛇足ですが、最後の三つめは根が深い問題のような気がします。

 

現場を廻すことだけに長けた人を指導監督職にしてはいけないという、登用

 

に対する考え方を見直す必要性さえ感じます。

 

われわれ介護福祉事業者にとっては1件の事故かもしれません。がしかし、

 

その人の人生が終わってしまったという事実は大きいものです。

 

私も義理の父親をある老健のショートステイ利用中に同じ事故で失っていま

 

す。

 

施設で起きる事故を個人の責任で終わらせてはいけない。

 

そのためには、事故が起きた時には、現場検証を行い、自分たちの施設のシ

 

ステム上の穴を一つでも多く見つけて、その穴を一つでも塞いでおくことが

 

事故防止、再発防止には欠かせないのではないでしょうか。

 

そうした地道な日々の努力が、利用者にとって良い施設と言われるようにな

 

るのではないかと思います。

 

今回は、「リーズンの軌道モデル」について書いてみました。

 

以上、皆様の何かのご参考になれば、誠に幸いです

 

お忙しい中、最後までお読み下さり、有難うございました。

次の第59号は、5月10日頃に配信致します。

1.内容は、興味がもてますか?
2.疑問点、ご意見はありますか?
3.その他、感想、希望テーマ等

差し支えない範囲で、日々お考えになっていることをご意見

くださると、テーマ選定や内容を考える上での参考になりま

すので、お気軽にご返信頂けますと幸いです。

※感想やご意見は、当方の励みになりますので、是非宜しく

お願い申し上げます。

 

 

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