賃金実態調査からみる福祉事業経営のあり方

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賃金実態調査からみる福祉事業経営のあり方

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2023/06/10 賃金実態調査からみる福祉事業経営のあり方

 

私は岡山県社会福祉協議会に設置されている社会福祉経営支援委員会の委員

 

を務めています。

 

今春、経営支援委員として、岡山県内の社会福祉法人の賃金実態調査結果

 

を取りまとめましたので、執筆者として感じたこと、気になったことを2~

 

いてみたいと思います。

 

岡山県社協の賃金実態調査は、定点観測を目的に5年間隔で実施しています。

 

介護業界は賃金が安いということが定説のようになっていますが、今回も

 

社会福祉法人の賃金(326施設・事業所の平均)は、地元の一般企業と比べ

 

ても遜色ない水準だということが分かりました。

 

が、一方でいくつか課題も見つかりました。

 

まずはじめに感じたのは、人材確保・定着・育成の観点からみて、賃金制

 

度・ャリアパス・人事考課制度・教育研修制度繋がっていないという

 

です。

 

大抵の施設・事業所では、これらは一通り揃っていますが、残念ながら、

 

一つひとつが単なる部品として、別個に存在しいるように見受けられま

 

す。

 

賃金制度は人材確保と連動します。キャリアパスは人材定着のための仕組み

 

と言えるでしょう。そして、人事考課・教育研修制度が人材育成を担うこと

 

になると思います。

 

賃金制度・キャリアパス・人事考課制度・教育研修制度という4つの仕組み

 

が、それぞれの役割を果たしているか。そのうえで、一つの人事管理システ

 

として有機的に結合しているか。この視点が弱いように感じます。

 

多くの場合、人事考課の結果を昇給や賞与に反映している程度に留まって

 

いるのではないか。

 

確かにこの4つが完全に連動して、一つの人事管理システムとして機能して

 

いるのは、一部上場企業はじめ大企業に限られるかもしれません。

 

一般の産業であっても多くの中小企業では、これらは部品として存在してい

 

るだけというところも少なくないのが実情でしょう。

 

しかしながら、われわれ福祉介護事業は労働集約型産業です。他の多くの

 

一般産業比べて機械化できる部分が極めて限られています。その分、多く

 

を人に頼らなければならない性質を持っています。

 

多くの人手が必要な福祉介護事業の場合、人が事業の根幹ですので、仮に

 

中小零細法人であったとしても、一個一個の部品に横串を通して、一つの

 

人事管理システムとして運用することが大事ではないか。

 

私のクライアントでも、ある程度の法人規模になると、これらを一つのパッ

 

ケージとして運用している姿を目にすることができます。

 

ここが形骸化していますと、いくら「人材確保・定着・育成」とスローガン

 

を掲げてみても、絵に描いた餅になるような気がします。

 

これが全体を通して感じたことです。

 

ここから各論に入りますが、はじめに勤続年数の問題があります。

 

今回の調査では特別養護老人ホームの職員の勤続年数は、9.6年でした。

 

ただし、ここには施設長や事務員、相談員などが含まれますので、純粋に

 

介護職員だけの勤続年数ではありません。

 

国の統計データ等から介護職員だけの勤続年数をみると8年程度です。これ

 

対して、一般企業の勤続年数は、概ね12~3年。最近はだいぶ壊れてきま

 

したが、それでも正社員の場合、一社に長く勤めています。

 

勤続年数と定着率は完全に相関します。平均勤続年数が短いということは、

 

定着率が低い、離職率が高いことを意味します。

 

離職率が高いことで、人材紹介会社に多額のお金が流れていることは、前号

 

でも書きましたので、割愛しますが、今回の調査では、人材紹介に掛けてい

 

用は特養で0.8%、保育所が1.0%でした。

 

仮に100名定員の特養の場合、年間収入が約5億円ですので、平均で400万

 

円が人材紹介に流れているという事になります。

 

そして、3つ目が職員研修費の少なさです。

 

これは、人材育成を目的とした教育研修制度が備わっていないか、あっても

 

形骸化していることを端的に表しているのではないでしょうか。

 

特養をはじめとした介護施設、障害者施設、保育所等の児童施設全てが

 

0.1%~0.2%という少なさです。人材紹介に掛けている費用の10分の1と

 

いう結果に対して、皆様はどうお感じになるでしょうか。

 

私はこのようなお金の使い方に疑問を感じざるを得ません。

 

コンサルをしていると「どうせ変わらないから職員研修などしても仕方な

 

い」とか「職員は、入替るから職員研修に掛ける費用は無駄」という

 

聞くことがあります。

 

これが、今、この業界で人が定着しない結果、人材紹介に多くのお金を掛け

 

ざるを得ない事態を引き起こしている一因ではないか。私はこのように分析

 

しています。

 

私が係わっている法人でも離職率が2~3%程度で人材紹介や派遣に依存し

 

ていないところがありますが、そこでは、研修費に年間収入の1%程度を充

 

てています。仮に5億円程度の年間収入がある法人では、職員研修費に500

 

万円も掛けています。多くの法人が人材紹介に使っているお金をここでは、

 

職員研修に充てているわけです。

 

私は教育で人は変わるものだと信じています。もちろん変わらない人もいま

 

すが、何割かの人は変わります。人間というものの可能性を信じているとい

 

うのが私の立場です。

 

卵が先か、鶏が先かのたとえではありませんが、経営者には、長期的な展望

 

が必要ではないでしょうか。

 

最後に管理職・役職手当の少なさです。施設長はともかく、主任が平均で

 

2万円弱、副主任が1万円程度が、今回の調査結果です。

 

多くの福祉施設では、現場のオペレーションは、ほぼ主任に任されている感

 

があります。20人程度のスタッフを使って、現場を預かる主任の役職手当が

 

2万円では、労働対価から言って少なすぎるのではないでしょうか。

 

スタッフ一人の面倒をみる対価が月千円では、少ないような気がします。

 

賃金制度は生活保障と労働対価の2つの要素で構成されますが、そのバランス

 

ちぐはぐな結果、生産性が低くなっている可能性があります。

 

管理職・役職手当が少ないから管理職になりたがらない。結果として、適性

 

があるような人を登用できない。しかたなく、現場仕事のベテランというだ

 

けで、主任や副主任といった役職に適性がない人を安易に登用して、生産性

 

が上がないという結果をもたらしているのではないか。

 

賃金制度において、扶養手当、住宅手当、特殊業務手当といった生活保障部

 

と管理職手当や夜勤手当といった労働対価部分のバランスを見直すことで

 

生活のためだけ、食い扶持だけで働く人ではなく、自分の成長が法人の成長

 

につながるという考え方を持っている志の高い人材に光を当てることにつな

 

がるのではないか。

 

このように賃金制度においても、細部に魂を入れていくことが、長い目で見

 

定着率が高く、生産性が高い法人経営へと変わっていけるのではないで

 

しょうか。

 

私はそのような見方をしていますが、果たして理想論でしょうか。

 

 

松下幸之助さんも「まずは世間的な、周りがそうしているからという、信念

 

のない考え方を改めることが大事であろう」と仰っていますが、この言葉は

 

今の我々の業界に重要な示唆を与えてくれているような気がします。

 

 

今回は、「賃金実態調査からみる福祉事業経営のあり方」というテーマで

 

てみました。

 

以上、皆様の何かのご参考になれば、誠に幸いです

 

お忙しい中、最後までお読み下さり、有難うございました。

 

次の第61号は、7月10日頃に配信致します。

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