「経営と賃金」

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2020/04/12 「経営と賃金」

こんにちは。

 

福祉マネジメントラボの大坪信喜です。

 

私が住んでいます神奈川県でも緊急事態宣言が発令されました。

 

これに従い、私もこれから最低でも1ヵ月間は自宅に籠もります。

 

何気ない日常が、いかに有難いことなのかつくづく感じる毎日です。

 

「明けない夜はない。」

 

この言葉を信じて、今はできる限りの感染防止に努めて、一日も早く、

 

日常に戻れるよう頑張りましょう。

 

みなさまもどうぞお気を付けてお過ごし下さいますようお祈り致します。

 

 

さて、今月も皆様とのご縁に感謝してメルマガをお送り致します。

 

「福祉介護事業の経営者・施設長のためのメルマガ通信」第22

 

 

今回は「経営と賃金」について考えてみます。

 

福祉介護事業の場合、労働集約型産業ということもあって経営と

 

いうとすぐに人件費率という話になります。

 

「経営的には人件費率は低い方が良いが、職員の勤続年数が長くなる

 

と人件費率が上がってしまう。だから定着率が上がるのも善し悪しだ。」

 

このように話される経営者もいます。

 

私は、これは「運営」の考え方であって「経営」の考え方ではないと

 

考えています。

 

経営とは永続することです。一方、運営は単年度で物事を考えます。

 

定着率が上がるということは、通年の採用コストも抑えられますし、

 

退職の穴埋めの度に派遣会社に高額な紹介料を払う必要もないので、

 

経営の継続にはとても良いことです。

 

経営では定着率が上がること、勤続年数が長いことは大いに喜ばしい

 

ことです。

 

しかし、運営の考え方に縛られていると、ここが見えなくなります。

 

勤続年数が長いことが足かせになるのは、勤続年数だけで無条件に

 

給料が上がっていく「公務員準拠の給与制度」に縛られるからです。

 

運営に終始している施設の多くは、この「公務員準拠の給与制度」が

 

運用されています。

 

公務員準拠の給与制度は、基本給だけでなく、昇給の考え方、手当の

 

考え方やその額、さらには賞与まで、人件費に係わるすべてのことに

 

影響しています。

 

勤続年数が長い一介のケアマネが、施設長の給料より高くなっている。

 

勤続年数が長い一般の介護職が、10人の部下スタッフを束ねている主任

 

より給料が高い。

 

特養等の職員の賃金プロット図を作成してみますと、こうした実態が

 

しばしば浮き彫りになります。

 

こうした矛盾は、勤続年数が長いことに問題があるのではなく、中途採用

 

中心の雇用と公務員準拠の給与制度にその要因があります。

 

蛇足になりますが、介護保険制度導入以前の平成12年まで、都内の特養

 

には年収1000万円の調理員さんがごろごろいました。

 

その当時、施設長より高い給料をもらっている調理員さんが結構いたのです。

 

その人たちの問題ということではなく、公務員準拠の賃金体系にこそ問題が

 

あった訳ですが、介護保険が導入されると、これでは経営できないということ

 

になって施設の給食業務は、軒並み民間の給食業者の外部委託へと切り替わっ

 

ていきました。

 

現在、多くの特養等で給食が外部委託になっている背景には、こうした歴史が

 

係わっています。

 

話を元に戻しますが、一部上場企業をはじめとして多くの一般企業は、

 

労働生産性と労働分配率の関係で給与制度を設計します。

 

加えて、新卒の定期採用もセットで考えられています。

 

中途採用中心にすると年齢構成が歪になり、新陳代謝も生まれないため

 

生産性と分配率の関係性が崩れるからです。

 

給与制度と採用政策は、経営の持続性と密接に関係しています。

 

一方、運営では、経営の持続性より職員処遇に重きが置かれます。

 

また、職員配置基準を満たすための場当たり的な採用になります。

 

公務員準拠の賃金の考え方では、従業員の生活保障に重きが置かれます

 

ので経営状況に関係なく昇給させる、賞与も経営状況に関係なく、

 

固定月数支給するという硬直化した考えで運用されます。

 

そこには、生産性を上げて経営を持続させるという発想はありません。

 

半世紀以上続いた措置制度の悪しき名残と言えるのではないでしょうか。

 

 

経営では、一番責任が重い経営層が、一番多くの賃金(役員報酬)を

 

受け取ります。

 

次に、経営目標の達成や人材育成に重い責任を負う管理職に高い賃金が

 

支払われます。

 

最後が一般職です。日銭を稼いでくれる大事な存在ですが、日常のルーチン

 

を繰返し、経営責任は負わない人たちの賃金はある程度低く抑えられます。

 

一般職でいるうちは、たとえ何年勤続を重ねたとしても、決して管理職の

 

賃金水準には到達しません。

 

調理員等の一般職が、施設長のような管理職の給料を上回ることなど

 

決してあり得ない話です。

 

経営では、生産性と分配率(人件費率)のバランスが重要です。

 

 

また、制度ビジネスは、国の職員配置基準に縛られるという問題もあります。

 

看護師の配置は、どこの施設も大変苦労していますので、来た人を何として

 

も採用しなければならず、結果としてその人の言いなりの給料になってしまう。

 

職員配置基準に縛られ、なおかつ確保が困難な看護師のような職種を

 

公務員準拠の給与制度で運用しようとすると大変なことになってしまいます。

 

多くは基本給を高く設定します。そうしますとそれに連動して賞与も必然的に

 

高くなります。

 

結果、月給も年収も異常に高い看護師や理学療法士が存在するようなことも

 

少なくありません。

 

生産性とは全くかけ離れた賃金(人件費)ということになってしまうのでは

 

ないでしょうか。

 

私は職員配置基準に縛られながら、中々採用できないこうした職種は、

 

法人の給与規程には当てはめず、年俸制で運用する方が良いのではないか

 

と思っています。

 

400万円~500万円位の範囲で、毎年契約更新したらどうかと考えます。

 

いずれにしても、公務員準拠の給与制度と国の職員配置基準に縛られた

 

場当たり的な採用を続けていくと生産性も上がらず、かつ、公平公正でない

 

職場になっていくのではないでしょうか。

 

 

また別の角度から生産性を考えますと、専門職が管理職に転換できないことも

 

大きな問題です。

 

「管理職は10人のスタッフを束ねて15人分の生産性を生み出す、

 

加えて、自分の後継者を育成することで組織の持続性に貢献する。」

 

この前提が大事です。

 

この前提がなく、課長になって、管理職としての給料をもらっていながら、

 

一生活相談員、一ケアマネの役割しか担わないとなると生産性は上がりません。

 

ただし、ここでも公務員準拠の考え方が影響し、多くの施設では課長手当が

 

1~2万円という場合も少なくありません。

 

管理職としての課長手当が12万円であれば、管理職の重責を担うという

 

気概は生まれず、多くは従来通りの働き方、つまり職種で働くように

 

なるのではないでしょうか。

 

「そのような重い責任を担うような手当はもらっていない。」と考えるのも

 

無理からぬことだと思えます。

 

一般企業では、管理職になったら管理職手当で一般スタッフと大きな差

 

を付けます。

 

課長であればその10倍の10万円以上は出すというのが一般的ではない

 

でしょうか。

 

部下スタッフの面倒を見るというのは、利用者の世話をするよりずっと

 

大変です。それ相当の手当を出さなければ、そのような重責は担えない

 

でしょう。

 

課長手当12万円というような公務員準拠の考えに縛られず、

 

管理職手当は、一般企業のような額を支給する必要があるのではないか。

 

管理職手当は、残業代見合いと部下スタッフの面倒見代です。

 

高い管理職手当を出す代わりに、その意味もしっかりと言って聞かせる。

 

「部下スタッフをしっかりまとめていくために使うんだよ。」

 

一般企業のこうした考え方を取り入れて、管理職の心構えを醸成していく

 

ことが職種から役職への転換には、欠かせない政策だと思います。

 

ですから、顧問先の法人には、高い管理職手当を出して、その心構えを

 

醸成して頂くようお願いしています。

 

運営から経営へ転換できない多くの施設が、中途採用中心の雇用と

 

公務員準拠の給与制度や考え方に縛られているように思えてなりません。

 

以上、何かのご参考になれば誠に幸いです。

 

お忙しい中、最後までお読み下さり、有難うございました。

 

次の第23号は510日頃に配信致します。

 

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