賃金の考え方

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賃金の考え方

メールマガジン

2021/02/15 賃金の考え方

福祉介護事業の経営者・施設長のためのメルマガ通信 第32号

 

こんにちは。

 

福祉マネジメントラボの大坪信喜です。

 

 

今月もご縁に感謝してメルマガをお送り致します。

 

 

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2月22日(月)新横浜プリンスホテルで

福祉介護事業の経営者・施設長のための経営セミナーを開催します。

残席あり。

令和3年4月からの介護報酬改定についてもお話しします。

今月のテーマは、

賃金の考え方

です。

 

 

賃金には、「生活保障」と「労働対価」という2つの側面があります。

 

ご承知かと思いますが、生活保障ばかりに偏ると生産性が上がりません。

 

人件費率が、毎年上がっていきます。

 

これが原因で、赤字になっている施設も少なくありません。

 

特養やデイサービスの3割以上が赤字ですが、たいてい人件費率が70%を

 

超えています。

 

生活保障=年功序列型賃金といえます。

 

 

一方、労働対価にばかり偏ると、従業員のモチベーションに問題が生じ

 

ます。

 

労働対価重視の成果主義人事制度を導入した一般企業では、多くの問題が

 

噴出しました。

 

私が以前勤めていた富士通では、日本でいち早く成果主義を導入しました

 

が、見事に失敗し、今では、成果主義は、賞与だけにして、月額報酬は

 

社員の意欲につながる評価制度に変えていると聞きます。

 

 

労働対価重視が行き着く先は、成果主義です。

 

株主利益を追求するあまり、従業員が疲弊してしまうシステムとも

 

いえるでしょう。

 

 

 

われわれが行っている福祉介護事業も、従業員が、チームで提供する

 

サービスによって収益を上げる構造ですので、労働対価にばかり偏ると、

 

長期的な安定経営に支障を来します。

 

 

生活保障と労働対価の、ほど良いバランスが大事になります。

 

くわえて、業績とのバランスも考えなくてはなりません。

 

 

そうした観点で、福祉介護事業向けの賃金について考えてみたい

 

と思います。

 

 

まず基本給ですが、基本給自体も生活保障と労働対価の二本立てで

 

設計します。いわゆる職能給の考え方です。

 

この場合、賃金表は、2種類必要になります。

 

生活保障と労働対価のための賃金表です。

 

生活保障の賃金表は、年齢あるいは勤続年数をもとに作成します。

 

年齢を軸にした賃金表にするか、勤続を軸にした賃金表にするか、

 

2つの選択肢がありますが、新卒採用の割合が多い場合は、年齢を軸に

 

する方が良いでしょう。

 

一方、中途採用者の割合が多い場合は、勤続を軸にする方が良いと思い

 

ます。

 

30歳以上の未経験者が採用される場合、年齢だけで給料が上がってしまい、

 

20代で勤続を重ねてきた人とのバランスが壊れる可能性があるからです。

 

 

つぎに、労働対価の賃金表は、キャリアパスの等級毎に作成します。

 

 

年齢あるいは勤続年数とキャリアパス等級が決まれば、それぞれの賃金

 

表に当てはめることで、その人の基本給が決定します。

 

 

 

仮に初任給を20万円とした場合、生活保障と労働対価の割合を7:3で

 

設計すると生活保障14万円、労働対価6万円がスタートになります。

 

つまり、生活保障の賃金表は14万円から始まります。

 

労働対価の賃金表は、1等級が6万円から始まります。

 

そして、2等級は、たとえば8万円から、3等級は10万円からという風に

 

決めて、等級の数分用意します

 

 

また、生活保障と労働対価の割合を8:2で考えると、生活保障16万円、

 

労働対価4万円になって、より生活保障の色合いが濃い賃金表になります。

 

逆に6:4で設計すると、生活保障12万円、労働対価8万円になり、より

 

労働対価の色合いが濃い賃金表になります。

 

いずれにしても、この2本の賃金表で運用することになります。

 

 

つぎに、昇給ですが、毎年、3,000円の昇給原資を見込んだとして、仮に

 

2,000円を生活保障へ、残りの1,000円を労働対価に割り振りますと、ほぼ

 

7:3になります。この割合も様々考えられます。

 

基本給と同じで、8:2で設計すれば、より生活保障の色合いが濃い昇給

 

になりますし、逆に6:4で設計すると、より労働対価の色合いが濃い昇給

 

になります。

 

 

ちなみに、毎年3,000円の昇給ですと、20年経っても6万円しか上がり

 

ませんちょっと寂しい気がしますが、デフレ下の国家財政では、

 

この辺りが、妥当な相場といえるのではないでしょうか。

 

今回の介護報酬改定もわずかに0.7%のプラスに留まっています。

 

実際、民間中小企業の平均昇給額は、3,000円台です。

 

従業員1人当りの売上が、7千万円のトヨタの昇給を真似することは

 

できません。

 

 

バブル期、措置制度で運用されていた福祉介護職の昇給が、

 

毎年1万円、1万5千円と上がっていたのが夢のようです。

 

失われた30年で、サラリーマンの平均給与は、600万円台から440万円

 

へと3割減少しています。

 

 

ここで、3,000円の昇給額をさらに上げる方法として、処遇改善加算

 

を使うことが考えられます。

 

もともとの昇給原資に処遇改善加算を加えることで昇給額を増額する

 

わけです。

 

いつまで続くか分からない処遇改善加算を昇給に使うことは、リスキー

 

ではありますが、毎年の昇給額に処遇改善加算を加えて、少しでも増額

 

してあげることで従業員のモチベーションが上がり、結果として生産性が

 

上がれば、それも1つの経営のあり方ではないでしょうか。

 

 

 

話しが脱線しますが、処遇改善加算を9月と翌年の3月の2回に分けて支給

 

することで、6月、9月、12月、3月の計4回のボーナス支給を謳っている

 

法人施設があります。

 

ボーナスをもらったら辞めるという人たちに、その隙を与えないのです。

 

辞めようと思った時に、2ヵ月後にはまた、まとまったお金が支給される

 

と思うと、中々踏ん切りがつかないという人もいるのではないでしょうか。

 

 

処遇改善加算をどう使えば、従業員の安易な離職を防げるか、従業員の

 

モチベーションを上がられるか、法人企業でその見せ方を、様々工夫

 

してみる時期が来ているように思います。

 

 

話しを戻します。

 

つぎは、諸手当です。

 

諸手当は、できるだけシンプルな構成が良いでしょう。

 

多くの社会福祉法人が、未だに使っている公務員準拠の賃金制度で問題

 

なのは、手当の数が多すぎることです。

 

これは、過去、公務員が待遇改善のために要求してきたことが、一つ一つ

 

手当となって制度化されてきた名残です。

 

10以上の手当がある法人施設も珍しくありません。

 

 

これからは、手当は3つか4つに絞るのが理想でしょう。

 

管理職手当、夜勤手当、扶養手当、通勤手当くらいが適当かと思います。

 

事務員の給与計算の負担も軽くなります。

 

それによる生産性向上もバカにならないでしょう。

 

 

労務管理には、「その人個人だけの属人的なもの」を手当とするという

 

ルールがあります。

 

個々での月額総支給額の矛盾を解消するために、何かしらの名目で手当

 

を付けて、調整しているというケースがありますが、労務管理上、これ

 

は邪道です。

 

以外とそのようなケースをたびたび見かけます。

 

 

また、資格手当を出している所が多いですが、一般企業では、あまり

 

見かけません

 

その資格を持っていることが採用条件なのに、その資格に手当を出すのは

 

矛盾しているというのが、一般企業の考え方です。

 

そもそも、採用条件であれば基本給に含まれる性質だからです。

 

 

資格手当の原資を基本給の原資に持って行けば、全員の基本給の底上げ

 

ができて、今より基本給を上げることができるでしょう

 

看護師などの資格者の採用が困難、介護福祉士の割合で加算が取れる

 

ということがその背景として考えられますが、等級で処遇する方が

 

組織論に適っています。

 

資格手当をもらっているのに後輩スタッフの教育をしない、面倒を見ない

 

ということが、しばしば話題になりますが、資格者を等級とリンクさせない

 

と個人的な恩恵くらいにしか受け取られないのではないでしょうか。

 

こうしたことが、組織論が根付かない背景としてあります。

 

 

最後に賞与の算出根拠です。

 

賞与の算出根拠に管理職手当や扶養手当等の手当を算入するか否かです。

 

賃金制度は、従業員に対するメッセージです。

 

どのような人を厚く処遇するか、どのような人を大事にしたいと考えて

 

いるか、経営者からのメッセージだと思います。

 

 

たとえば、稼働率やりしょに責任を持たない、名ばかり管理職が常態化

 

しているようであれば、管理職手当を賞与に入れる必要はないでしょう。

 

しかし、本当は、これは順番が違います。管理職を登用する際の問題です。

 

登用する際の基準を厳格化するとともに、登用したら、管理職責任を負う

 

ような人材になってもらうための研修・訓練を繰り返すのが本筋でしょう。

 

 

児童手当は、少子化にあって頑張ってくれている従業員を厚く処遇する

 

という意味で、算出根拠に入れるのが妥当だと思いますが、一方で、

 

配偶者手当の存在は、時代にそぐわない状況になっています。

 

 

また、賞与の支給月数は、全正社員一律が良いと思います。

 

基本給には、すでに労働対価の要素が入っていますので、賞与月数に差

 

を付けるというのは、不要なような気がします。

 

また、たまたまその部署にいることで恩恵を受けたり、逆に被害を受けたり

 

するのは、従業員の一体感の上で阻害要因となります。

 

 

ただし、経営状況に関係なく、毎年、決まって4ヵ月支給するというのも

 

どうかと思います。

 

多くの就業規則には、「経営状況によって賞与を支給する」という文言が

 

入っていますが、実際に経営状況によって、賞与支給月数を変えている法人

 

施設は少数派です。

 

私は、決算状況によって、賞与支給月数を変える必要があると考えていま

 

す。こうすることで、一定程度、労働生産性を担保することができます。

 

 

賞与は、経営状況で変動させますが、月額の給与は、安定している方が

 

良いでしょう。

 

 

 

以上、見てきましたが、制度には100%はありませんので、ある程度の所で

 

妥協する必要があります。

 

新設の法人施設であれば、このまま導入してもあまり問題はありませんが、

 

今の賃金制度から変更する場合は、少し手間が掛ります。

 

代表的な何人かを実際に当てはめてみて、できるだけ齟齬がない所で

 

落ち着かせるか、経過措置として何年かは下駄を履かせるといった

 

措置が必要になる場合もあるでしょう。

 

 

賃金制度も経営ツールですので、PDCAを廻しながら、試行錯誤を繰り返す

 

必要があります。

 

 

現在の賃金実態を点検する方法として、賃金プロットという分析手法が

 

あります。年齢や勤続年数、等級毎に色分けして、全従業員の賃金をグラフ

 

上にプロットする方法です。

 

3年に一度くらい、この賃金プロットを実施して、矛盾がないか検証する

 

ことも大事です。

 

弊社では、賃金プロットの分析もしています。

 

ご興味がある方は、以下のホームページからお問い合わせ下さい。

売上と人件費率だけが経営ではありません。

 

心ある従業員が、伸び伸びと働ける組織こそが、素晴らしい経営を

 

しているといえるのではないでしょうか。

 

賃金制度でも、その後押しをしたいものです。

 

 

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